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β溶血性レンサ球菌

5. Mタンパクと莢膜の分子疫学

GAS の emm 型別の成績はどのようになっているのでしょうか?


図-18 には,2010年の収集株 (n = 131) に関する emm 型,および発症例の予後との関係を示します。図で明らかなように,侵襲性感染症由来株で最も多い型は emm1 型であり,全体の35%を占めています。しかも,この emm 型による発症例で「予後不良例 (死亡 + 後遺症残存) 」が圧倒的に多いのです。STSS や敗血症,蜂窩織炎由来株が多いことも特徴です。 emm1 型菌の培地上のコロニー形態をみますとムコイド型であることが多く,また嫌気培養によってムコイド状態が増強されます。このことは肺炎球菌のムコイド型株で重症例が多いことと関連していると考えられます。

2006年の成績でも emm1 型株が33%と多く,また予後不良例も多かったのですが,さまざまな emm 型の中でもemm1 型は特別なのかも知れません。

ヒトの CD46トランスジェニックマウスを用いた実験によっても,emm1 型ではヒトと同様の病態を生ずることが研究協力者の松井らによって報告されています。

付け加えておきますと,急性咽頭炎/扁桃炎例から分離される GAS 株は emm12 型や emm4 型,emm28 型等で emm1 型は少なく,侵襲性感染症由来株とは疫学的に明らかに異なることが判っています。

SDSE の emm 型別の成績はどのようになっているのでしょうか?


SDSE 株についての emm 型別の成績は図-19に示します。

本邦において,侵襲性感染症由来 SDSE 株の全国規模の分子疫学解析を行なったのはこの研究班が始めてです。図で明らかなように,最も分離頻度の高いのは stG6792 (厳密にはstG6792.3) 型で,全体の26%を占めています。「予後不良例」はこの stG 型に多いのですが,その他の型にも認められています。予後不良例は GAS の22.1%に較べおおよそ11.6%でした。

2006年度の疫学成績と比較しますと,stG245 型が増えstG485stG6 が減少していますが,今まで分離されていなかった型が認められつつあり,菌が多様化していることが示唆されます。


全国から収集された SDSE で最も多いstG6792 株について DNA を抽出し,パルスフィールド・ゲル電気泳動 (PFGE) 法によって菌の染色体 DNA 切断パターン (DNAプロファイル) を比較しますと,図-20 に示すように,ほぼ同一の泳動パターンです。同一起源の株(同一クローンという)であることが明らかです。

GBSの莢膜型別の成績はどのようになっているのでしょうか?


図-21 には GBS の莢膜型別の成績を示します。

小児と成人由来株では莢膜型は明らかに異なりますので,別々のグラフとして示してあります。新生児の GBS 感染症は,早発型 (early onset) とそれ以降の遅発型 (late onset) に区別されます。

化膿性髄膜炎由来株はほとんどが III型で,他に Ia や Ib 型がごくわずか分離されるに過ぎません。妊婦に対する GBSの予防検査では10-15%の方の生殖器検査材料から GBS が分離されますが,III 型はその15%程度であることが明らかになっています。新生児化膿性髄膜炎にIII型が多い理由として,この型に特異的な凝集素 (type-specific agglutinin) のみが胎盤を通過しないこと,あるいは脳微小血管内皮細胞への侵入性が高いなど,いくつかのことが指摘されていますが,明確な証拠は得られていません。

一方,成人からは Ib 型が最も多く分離され,次いで  V,II,III 型などさまざまな型が分離されています。小児とは違い,高齢者における発症には宿主側の要因が大きく影響しています。なお,薬剤感受性の項で記しますが,成人から分離される頻度の高い Ib 型にはニューキノロン薬耐性株が多く認められます。

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